限定承認とは⁠|相続放棄との違いと手続き

亡くなった人に借金があるか分からない、でも残したい財産もある。そんなときの選び方の一つが「限定承認」です。相続で得た財産の範囲でだけ借金などを支払う方法で、家庭裁判所への申述が必要です。条文と裁判所の案内にもとづいて、仕組みと手続きを解説します。

この記事の要点

  • 限定承認は、相続で得た財産の限度でだけ、亡くなった人の債務と遺贈を支払う相続のしかたです(民法922条)。
  • 相続人が数人いるときは、共同相続人の全員が共同してでなければできません(民法923条)。
  • 期限は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内。財産目録を作って家庭裁判所に出し、申述します(民法915条・924条)。
  • 申述が受理された後も、官報公告や債権者への弁済などの清算の手続きが続きます(民法927条ほか)。

この記事で分かる次の行動:相続人全員で、3か月以内に家庭裁判所へ申述するかを決める(まず財産と借金を目録に)

1. 3つの選び方の違い

相続人は、相続について次の3つから選びます。何もしないまま3か月が過ぎると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。

選び方財産借金など手続き
単純承認すべて引き継ぐすべて引き継ぐ(民法896条)不要
限定承認引き継ぐ相続で得た財産の限度で支払う(民法922条)相続人全員で家庭裁判所に申述(民法923条・924条)
相続放棄引き継がない引き継がない(初めから相続人でなかったものとみなす。民法939条)各自が家庭裁判所に申述

2. 限定承認が向いている場面

裁判所は、限定承認を「被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等」に、相続で得た財産の限度で債務を負担する方法として説明しています。たとえば次のような場面です。

  • 借金がありそうだが、総額が分からない
  • 自宅など、手放したくない財産がある
  • 財産と借金のどちらが多いか、3か月では判断がつかない

相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄をした人がいる場合は、残りの相続人全員で限定承認をすることになります。

向かない場面

  • 相続人の中に反対する人や連絡のつかない人がいる(全員が共同しなければできない。民法923条)
  • 財産が借金より明らかに少なく、残したい財産もない(各自でできる相続放棄の方が手続きが少ない)
  • 値上がりした土地や株式があり、みなし譲渡所得の税金が重くなる(所得税法59条、国税庁 No.3105)

3. 申述の手続き(期限・費用・書類)

項目内容(裁判所の案内)
申述する人相続人全員が共同して
期限自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(期限カレンダーで日付を確かめる)。調べても判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます(民法915条1項ただし書)
申述先被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
費用収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)
主な書類申述書、財産目録、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍謄本など(相続人の順位によって追加あり)

限定承認をするには、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出する必要があります(民法924条)。悪意で目録に載せなかった財産があると、単純承認をしたものとみなされることがあります(民法921条3号)。

4. 受理された後の清算の流れ

  1. 相続財産の清算人の選任:相続人が数人いるときは、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選びます(民法936条1項)。
  2. 官報公告:限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者と受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて請求の申出をするよう公告します。公告は官報に掲載して行います(民法927条1項・4項)。清算人が選ばれた場合は、選任から10日以内です(民法936条3項)。
  3. 知れている債権者への催告:分かっている債権者と受遺者には、個別に申出の催告をします(民法927条3項)。
  4. 弁済:期間が過ぎた後、相続財産から債権者に支払います。財産を売ってお金に換える必要があるときは、原則として競売によります(民法932条)。

手続きが長く、書類も多くなります。途中の手続きを誤ると責任を負うこともあるため、限定承認を考えるときは、専門家への相談が考えられるケースです。

5. 注意点:財産の処分と税金

  • 財産を処分しない:限定承認や相続放棄の前に相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号。保存行為などを除く)。
  • みなし譲渡所得:国税庁は、限定承認による相続があった場合、その資産は時価で譲渡されたものとみなされると説明しています(所得税法59条、国税庁 No.3105)。土地や株式など値上がりした財産があると、亡くなった人の所得税(準確定申告)が生じることがあります。準確定申告の期限は準確定申告の期限4か月の数え方を見てください。

6. 相談先

  • 家庭裁判所:申述書の書式・必要書類・期間の伸長の手続き。
  • 弁護士:限定承認をするかどうかの判断、債権者への対応と清算の進め方。
  • 司法書士:申述書など家庭裁判所に出す書類の作成、不動産の相続登記。
  • 税理士・税務署:みなし譲渡所得と準確定申告。

この記事は一般的な説明です。限定承認をするかどうかの判断は、上の相談先で確かめてください。

次の一歩

よくある質問

限定承認と相続放棄はどう違いますか?

相続放棄は財産も借金も引き継がない方法、限定承認は財産を引き継ぎつつ、相続で得た財産の限度でだけ借金などを支払う方法です(民法922条・939条)。限定承認は相続人全員で申述する必要があります(民法923条)。

相続人の1人が反対したら限定承認はできませんか?

相続人が数人あるときは、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみすることができます(民法923条)。相続放棄をした人は初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、その人を除いた全員で申述します。

限定承認の期限はいつまでですか?

自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条1項)。期間内に判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることができます。

費用はいくらかかりますか?

裁判所の案内では、申述の費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。このほか、官報公告の費用や、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。

限定承認をすると税金がかかることがありますか?

国税庁は、限定承認による相続では資産が時価で譲渡されたものとみなされると説明しています(所得税法59条、国税庁 No.3105)。値上がりした財産があると、亡くなった人の所得税がかかることがあります。

出典(一次情報)

いずれも2026年10月15日・16日に確認しました。

この記事は、2026年10月16日時点の法令と公式の情報にもとづく一般的な説明で、法律・税務の助言ではありません。個別の事情(相続人の確定、期限の起算点、税額など)によって結論が変わることがあります。具体的な判断は、家庭裁判所・税務署・法務局の窓口、または弁護士・税理士・司法書士にご相談ください。

関連する解説

確認者:板野 克基(株式会社ブライトアセット 代表取締役) 最終更新日:2026年10月16日(条文はe-Gov法令検索で同日に確認) 編集方針と確認の手順