遺留分侵害額請求の期限|「知った時から1年」「相続開始から10年」の数え方

遺言や生前の贈与で、法律で守られた最低限の取り分(遺留分)より少ない財産しか受け取れなかった相続人は、贈与や遺贈を受けた人にお金の支払いを請求できます。この請求には期限があります。民法の条文と裁判所の説明にもとづいて、期限の数え方を解説します。

この記事の要点

  • 遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で、時効によって消滅します(民法1048条)。
  • 知らなかった場合でも、相続開始の時から10年を過ぎると同じく請求できなくなります(同条)。
  • 家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、相手への意思表示にならないため、別に内容証明郵便などで意思表示をする必要があります(裁判所)。
  • 請求できるのは兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条)。具体的に請求できるか・いくらかは、弁護士に相談しましょう。

1. 期限は「1年」と「10年」

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。民法1048条
期限数え始め例(架空)
1年相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時令和8年6月20日に、亡くなったことと遺言の内容を知った → 令和9年6月20日まで
10年相続開始の時(亡くなった時)令和8年6月20日に亡くなった → 令和18年6月20日まで

2つのうち、先に来る方が実際の期限になります。例の日付は、初日を数えない民法の数え方(民法140条・143条)による目安です。

民法142条では、期間の末日が日曜日・祝日などに当たるときに翌日に延びるのは、その日に取引をしない慣習がある場合に限られます。期限ぎりぎりにならないよう、早めに動きましょう。

2. 1年はいつから数えるか

条文の「知った時」は、相続が始まったことと、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの両方を知った時です。たとえば次のように、亡くなった日と一致しないことがあります。

  • 亡くなったことはすぐに知ったが、遺言の内容を知ったのは数か月後だった
  • 生前に大きな贈与があったことを、遺産を調べる中で後から知った

裁判例の考え方(一般論):改正前の「遺留分減殺請求」についての最高裁判決(昭和57年11月12日・第二小法廷)は、「減殺すべき贈与があったことを知った時」を、贈与の事実と、それが減殺できるものであることを知った時と解すべきだとしました。そのうえで、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて、遺留分権利者がそれを認識している場合には、特段の事情がない限り、減殺できるものであることを知っていたと推認するのが相当としています。現在の「遺留分侵害額の請求」の事案でどう考えられるかは、事案ごとの判断になります。

いつ「知った」といえるかは、事情によって判断が分かれることがあります。自分の場合の起算日がいつかは、弁護士に相談して確かめましょう。相続のこよみの期限カレンダーでは、亡くなった日を「知った日」として1年の目安を表示します。

3. 期限までにすること

裁判所の説明では、遺留分侵害額の請求は、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示を相手方にする必要があります。そして、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示とはならないので、調停の申立てとは別に内容証明郵便等により意思表示を行う必要があるとされています。

  • 話し合い:まず当事者どうしで話し合います。
  • 調停:話し合いがつかない・できない場合は、家庭裁判所の「遺留分侵害額の請求調停」を利用できます。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所で、費用は収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です(裁判所)。

請求は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めるものです(民法1046条1項)。

意思表示の書面に書く事項の例

法令や裁判所の案内に決まった文例はありません。以下は、誰が・誰に・どの相続の・どの遺贈や贈与について請求するのかが分かるように、事項を整理した一例です。

  • 差出人(遺留分権利者)と宛先(遺贈・贈与を受けた人)の住所・氏名
  • 被相続人の氏名と、亡くなった日(相続開始の日)
  • 対象の遺言(作成日・種類)や贈与(時期・内容)
  • 遺留分侵害額の請求をする旨
  • 書面の日付

法務省の法制審議会の部会資料では、権利を行使する意思表示と、それによって生じる金銭の支払の請求とを分けて整理し、権利を行使する意思表示の時点では、必ずしも金額を明示する必要はないと考えられる、としています。実際の書き方は弁護士に相談しましょう。

意思表示の後の金銭の請求にも、時効がある

同じ部会資料は、意思表示によって生じる金銭債権について、消滅時効の扱いを別に検討しています。民法166条1項は、債権一般について、権利を行使できることを知った時から5年(1号)、権利を行使できる時から10年(2号)行使しないときは時効によって消滅すると定めています。意思表示をした後も、支払を受けるまで放置しないようにしましょう。具体的な期限は弁護士に確かめてください。

4. 請求できる人と遺留分の割合

遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条1項)。全体の遺留分の割合は次のとおりで、相続人が数人いる場合は、これに各自の法定相続分を掛けます(同条2項)。

相続人全体の遺留分各自の遺留分の例
直系尊属(父母など)のみ3分の1父母2人 → 各6分の1
それ以外(配偶者・子など)2分の1配偶者+子2人 → 配偶者4分の1、子 各8分の1
兄弟姉妹遺留分はない

遺留分を計算するもとになる財産には、亡くなった時の財産に、一定の生前贈与を加え、債務を差し引きます(民法1043条・1044条)。実際の金額の計算は、贈与の時期や内容によって変わります。法定相続分は法定相続分の一覧表、遺産の全体は財産目録で整理できます。

5. 令和元年7月1日より前の相続

裁判所の説明では、令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合は、遺留分侵害額の請求調停は申し立てられず、改正前の民法にもとづく「遺留分減殺による物件返還請求等の調停」を申し立てることになります。古い相続の場合は、どちらに当たるかを先に確かめましょう。

6. 相談先

  • 弁護士:請求できるか、金額、意思表示のしかた、起算日など、個別の判断。
  • 家庭裁判所:調停の手続き(申立書の書式・必要書類)。

この記事は期限の一般的な説明です。請求するかどうか、どう請求するかの判断は、弁護士に相談してください。

次の一歩

よくある質問

遺留分侵害額の請求の期限はいつまでですか?

相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で、時効によって消滅します。知らなかった場合でも、相続開始の時から10年を過ぎると同じく請求できなくなります(民法1048条)。

調停を申し立てれば、期限に間に合いますか?

裁判所は、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示とはならないため、調停の申立てとは別に内容証明郵便等により意思表示を行う必要があると説明しています。

兄弟姉妹にも遺留分はありますか?

ありません。遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条1項)。

遺留分の請求は、物を返してもらうことですか?

現在の民法では、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求するものです(民法1046条1項)。令和元年7月1日より前に始まった相続は、改正前の民法の手続き(遺留分減殺)になります(裁判所)。

請求した後のお金の請求にも期限はありますか?

法務省の法制審議会の部会資料は、意思表示によって生じる金銭債権の消滅時効を別に検討しています。民法166条1項は、債権一般について、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効によって消滅すると定めています。具体的な期限は弁護士に確かめてください。

自分の場合、1年はいつから数えますか?

条文上は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことの両方を知った時からです。具体的な起算日は事情によって判断が分かれることがあるため、弁護士に相談してください。

出典(一次情報)

いずれも2026年10月15日・16日に確認しました。

この記事は、2026年10月16日時点の法令と公式の情報にもとづく一般的な説明で、法律・税務の助言ではありません。個別の事情(相続人の確定、期限の起算点、税額など)によって結論が変わることがあります。具体的な判断は、家庭裁判所・税務署・法務局の窓口、または弁護士・税理士・司法書士にご相談ください。

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確認者:板野 克基(株式会社ブライトアセット 代表取締役) 最終更新日:2026年10月16日(条文はe-Gov法令検索で同日に確認) 編集方針と確認の手順