相続税の基礎控除の計算と、申告が必要かの判定
相続税がかかるかどうかは、まず「基礎控除」を超えるかどうかで決まります。基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」の数え方と、申告が必要かの判定の手順を、相続税法と国税庁の案内にもとづいて整理しました。
この記事の要点
- 基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(相続税法15条1項)。
- 人数は民法の相続人が基本ですが、相続放棄をした人も数え、養子は実子がいれば1人・いなければ2人までです(同条2項)。
- 取得した財産の合計額が基礎控除以下なら、申告も納税も不要です(国税庁 No.4205)。
- 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は申告書で適用を受けるもの。特例前の合計額が基礎控除を超えれば、税額ゼロでも申告が必要です。
- 死亡保険金の非課税枠も500万円×法定相続人の数で、同じ数え方です(国税庁 No.4114)。
1. 基礎控除を定める条文
相続税は、遺産があれば必ずかかるわけではありません。遺産の合計から遺産に係る基礎控除額を差し引き、残りがある場合にだけ相続税の総額が計算されます。基礎控除は相続税法15条1項に定められています。
相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(中略)の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。相続税法15条1項(e-Gov法令検索で2026年10月15日に確認)
式にすると、基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数です(国税庁 No.4152)。基礎控除額を決めるのは「法定相続人の数」だけで、遺産の種類や、誰が何を取得したかは関係しません。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 例 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 子1人だけ |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者と子1人 |
| 3人 | 4,800万円 | 配偶者と子2人 |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者と兄弟姉妹3人 |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者と子4人 |
2. 「法定相続人の数」の数え方
基礎控除の「相続人の数」は、民法の相続人の数を基本にしつつ、相続税法15条2項で2つの調整がされます。
前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。相続税法15条2項(e-Gov法令検索で2026年10月15日に確認)
調整1:相続放棄をした人も数える
民法では、相続放棄をした人ははじめから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。しかし相続税の基礎控除では、放棄がなかったものとして数えます。たとえば配偶者と子2人のうち子1人が放棄しても、基礎控除の人数は3人のままです。
調整2:養子は1人または2人まで
数に入れる養子は、亡くなった方に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです(相続税法15条2項1号・2号、国税庁 No.4152)。特別養子縁組による養子や、配偶者の実子で亡くなった方の養子になった人などは、実子とみなされます(同条3項)。
一方、民法では養子も実子と同じ相続人で、相続分も同じです。民法の相続人の数と、相続税の基礎控除の人数は一致しないことがあるので注意しましょう。
| 家族の状況 | 民法の相続人 | 基礎控除の人数 | 基礎控除額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者・子2人 | 3人 | 3人 | 4,800万円 |
| 配偶者・子2人(うち1人が相続放棄) | 2人(配偶者・子1人) | 3人(放棄はなかったものとする) | 4,800万円 |
| 配偶者・実子1人・養子2人 | 4人 | 3人(養子は1人まで) | 4,800万円 |
| 配偶者なし・養子3人(実子なし) | 3人 | 2人(養子は2人まで) | 4,200万円 |
| 配偶者・兄弟姉妹3人(子・親なし) | 4人 | 4人 | 5,400万円 |
民法の相続人の数は、法定相続分の計算で家族構成を選ぶと確かめられます。そこから上の2つの調整をすると、基礎控除の人数になります。
3. 申告が必要かの判定
国税庁 No.4205によると、相続税の申告と納税が必要なのは、相続や遺贈などで取得した財産の価額の合計額(債務などを差し引き、一定の贈与財産を加えた額)が遺産に係る基礎控除額を超える場合です。基礎控除額の範囲内であれば、申告も納税も必要ありません。
判定の手順(国税庁 No.4152の計算の流れから)
- 相続や遺贈で取得した財産の価額に、生命保険金などのみなし相続財産を加え、非課税財産を除き、相続時精算課税の贈与財産を加える。
- そこから債務と葬式費用を差し引く。
- 相続開始前の一定期間内に受けた暦年課税の贈与財産を加える(加算する期間は国税庁の案内で確認してください)。
- 全員分を合計し、基礎控除額と比べる。超えていれば申告が必要です。
特例で税額がゼロになる場合も、申告が必要なことがある
国税庁 No.4205の注では、この判定に使う合計額は、小規模宅地等の特例などを適用しないものとして計算するとされています。また、配偶者の税額軽減(国税庁 No.4158)や小規模宅地等の特例(国税庁 No.4124)は、相続税の申告書に記載して適用を受けるものです。そのため「特例を使えば税額はゼロになる」という場合でも、特例前の合計額が基礎控除を超えていれば、申告書の提出が必要です。
配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円か、配偶者の法定相続分相当額の多いほうまでは相続税がかからないという制度です(国税庁 No.4158)。ただし、申告期限までに分割されていない財産は、原則としてその対象になりません。
4. 生命保険金の非課税枠も「法定相続人の数」で決まる
亡くなった方が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税の計算ではみなし相続財産になります。ただし、相続人が受け取った死亡保険金には非課税枠があります(国税庁 No.4114)。
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
この「法定相続人の数」も基礎控除と同じく、相続放棄をした人がいても放棄がなかったものとして数え、養子は実子がいれば1人、いなければ2人までです。なお、相続放棄をした人や相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、この非課税は適用されません(国税庁 No.4114)。
5. 相続税の総額の計算(速算表)
基礎控除を超えた部分(課税遺産総額)は、いったん法定相続分どおりに分けたものとして各人の税額を計算し、合計して「相続税の総額」を出します(国税庁 No.4152)。税率は次の速算表のとおりです(国税庁 No.4155)。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | ― |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
計算例:課税価格の合計1億円、配偶者と子2人
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 基礎控除額 | 3,000万円+600万円×3人 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 1億円−4,800万円 | 5,200万円 |
| 配偶者(法定相続分1/2) | 2,600万円×15%−50万円 | 340万円 |
| 子A(法定相続分1/4) | 1,300万円×15%−50万円 | 145万円 |
| 子B(法定相続分1/4) | 1,300万円×15%−50万円 | 145万円 |
| 相続税の総額 | 340万円+145万円+145万円 | 630万円 |
この総額を、実際に取得した財産の割合で各人に割り振り、配偶者の税額軽減などの税額控除を差し引いて、各人の納付税額が決まります(国税庁 No.4152)。上の例は仕組みを示すための計算で、実際の税額は財産の評価や特例によって変わります。
6. 申告の期限と提出先
- 期限:亡くなったことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内に申告と納税(相続税法27条、国税庁 No.4205)。国税庁の例では1月6日に亡くなった場合は11月6日。期限が土日祝などに当たれば翌日です。
- 提出先:亡くなった方の住所地を所轄する税務署(相続人の住所地ではありません)。
- 納付:期限までに納付します。延納・物納を希望する場合は、申告期限までに申請が必要です(国税庁 No.4205)。
10か月の期限日は、相続の期限カレンダーで亡くなった日を入れると、休日の扱いも反映して表示されます。
次の一歩
家族構成を選ぶと、民法上の相続人とそれぞれの法定相続分を表示します。基礎控除の人数は、ここから相続放棄・養子の調整をして求めます。
相続分を調べる(無料)→無料相続税の申告期限(10か月)を計算亡くなった日から、10か月の期限日を休日の扱いも反映して表示します。
開く →よくある質問
相続税の基礎控除はいくらですか?
3,000万円+600万円×法定相続人の数です(相続税法15条1項、国税庁 No.4152)。相続人が配偶者と子2人の3人なら4,800万円です。
相続放棄をした人も、基礎控除の人数に入りますか?
入ります。基礎控除の「相続人の数」は、相続の放棄があっても、その放棄がなかったものとした場合の人数です(相続税法15条2項)。
養子が何人いても、全員数えられますか?
数えられるのは、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです(相続税法15条2項、国税庁 No.4152)。民法上は養子も全員が相続人です。
配偶者の税額軽減で税額がゼロになるなら、申告はしなくてよいですか?
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、相続税の申告書に記載して適用を受けるものです(国税庁 No.4158・No.4124)。特例を適用しないで計算した合計額が基礎控除を超える場合は、税額がゼロでも申告書の提出が必要です(国税庁 No.4205の注)。
遺産が基礎控除以下なら、税務署への手続きは何もいりませんか?
取得した財産の価額の合計額が基礎控除額の範囲内であれば、相続税の申告も納税も必要ありません(国税庁 No.4205)。ただし、亡くなった方の準確定申告(4か月)など、所得税の手続きは別に必要な場合があります。
出典(一次情報)
- 相続税法15条・27条(e-Gov法令検索)
- 民法939条(e-Gov法令検索)
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4155 相続税の税率
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
いずれも2026年10月15日に確認しました。
関連する解説
確認者:板野 克基(株式会社ブライトアセット 代表取締役) 最終更新日:2026年10月15日(条文はe-Gov法令検索で同日に確認) 編集方針と確認の手順